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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)136号 判決 1991年3月28日

原告 東芝ライテック株式会社

被告 特許庁長官

主文

特許庁が、昭和六二年審判第一〇六二二号事件について平成二年三月八日、同第一〇六二一号事件について同月一五日、同第一〇六二三号事件について同月二二日にした各審決をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

1  甲事件

原告は、昭和五七年一二月二七日、意匠に係る物品を「天井用埋込み灯」とし、登録第六二二七九八号意匠(別紙図面(三)(1) 、「本件本意匠1」という。)を本意匠とする別紙図面(一)(1) のとおりの意匠(以下「本願意匠1」という。)につき類似意匠登録出願(同年意匠登録願第五七九八七号)をしたところ、昭和六二年三月三一日拒絶査定を受けたので、同年六月一二日審判の請求を請求した。特許庁は、右請求を同年審判第一〇六二二号事件として審理したうえ、平成二年三月八日、審判請求不成立の審決をした。

2  乙事件

原告は、昭和五七年一二月二七日、意匠に係る物品を「天井用直付け灯」とし、本件本意匠1を本意匠とする別紙図面(一)(2) のとおりの意匠(以下「本願意匠2」という。)につき類似意匠登録出願(同年意匠登録願第五七九八五号)をしたところ、昭和六二年三月三一日拒絶査定を受けたので、同年六月一二日審判の請求を請求した。特許庁は、右請求を同年審判第一〇六二一号事件として審理したうえ、平成二年三月一五日、審判請求不成立の審決をした。

3  丙事件

原告は、昭和五七年一二月二七日、意匠に係る物品を「天井用埋込み灯」とし、登録第五九三四八六号意匠(別紙図面(三)(2) 、以下「本件本意匠2」という。)を本意匠とする別紙図面(一)(3) のとおりの意匠(以下「本願意匠3」という。)につき類似意匠登録出願(同年意匠登録願第五七九九〇号)をしたところ、昭和六二年三月三一日拒絶査定を受けたので、同年六月一二日審判の請求を請求した。特許庁は、右請求を同年審判第一〇六二三号事件として審理したうえ、平成二年三月二二日、審判請求不成立の審決をした。

二  審決の理由の要点

別紙記載のとおり。

三  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2のうち、各(三)、(七)は争うが、その余は認める。同3のち、(六)、(七)は争うが、その余は認める。(なお、前記一、二記載のとおり、甲事件は本願意匠1と引用意匠1と本件本意匠1に、乙事件は本願意匠2と引用意匠1と本件本意匠1に、丙事件は本願意匠3と引用意匠2と本件本意匠2に係るものであるが、以下、特にその点を区別して示す必要のない限り、甲、乙、丙事件を一括して、単に「本願意匠」と「引用意匠」と「本件本意匠」との関係として述べる。)

1  甲、乙、丙事件(以下、これらを総称するときは「本件」という。)とも、本願意匠の出願は本件本意匠を本意匠とする類似意匠登録出願(意匠法一〇条一項)としてなされたもので、引用意匠は、本件本意匠の登録出願後で本願意匠の登録出願前の出願に係り、かつ、その出願は本件本意匠(ただし丙事件では、本件本意匠2の類似第1号の意匠)に類似するとして意匠法九条一項により拒絶(確定)されたものである。

2  しかして、意匠法一〇条一項において類似意匠登録を受け得るとされているのは、「自己の登録意匠(本意匠)にのみ類似する意匠」についてであるが、類似意匠登録出願に係る意匠が、本意匠に類似すると同時に第三の意匠にも類似する場合でも、右第三の意匠が本意匠の登録出願後で類似意匠の登録出願前の出願に係り、かつ本意匠に類似するものであるときは、同項により類似意匠登録が受けられると解するのが相当である。

その理由は、次のとおりである。すなわち、意匠法一〇条の定める類似意匠登録制度は、意匠が「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」(同法二条一項)という極めて具体的な物品の形態を対象とすることから、一般の需要、嗜好の変化に応じて適当に修正改良を加えて使用される場合が多く、また、僅かな変更を加えて模倣される危険性も大きいことに鑑み、特に本意匠に類似する意匠の登録を許すことにより、本意匠の類似範囲を明確にするとともに意匠権の保護を強化しようとしたものであり、また、出願された意匠が本意匠に類似すると同時に第三の意匠にも類似するときは、これとの混同を避ける必要があることから、同条一項により右登録の受けられる意匠を「自己の登録意匠(本意匠)にのみ類似する意匠」に限定したものである。しかして、類似意匠登録出願に際し、該類似意匠登録出願より先願の第三の意匠が存し、かつ該類似意匠登録出願に係る意匠が右第三の意匠に類似するときであっても、右第三の意匠が本意匠の登録出願後の出願に係り、かつ本意匠に類似するものである場合は、右第三の意匠は、本来、本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するものとして実施が許されない筈のものであり(本件の場合は、引用意匠の出願は本件本意匠の出願の後願として意匠法九条一項により拒絶される関係にあり、現に、甲、乙事件ではそれを理由として拒絶されている。)、かかる第三の意匠にまで先願としての地位(後願排除効)を認めるとすれば、かえって、前記制度趣旨に反することになるから、このような場合には、右第三の意匠の先願としての地位は否定されると解するのを相当とするのである。

3  したがって、本件において、引用意匠が本願意匠に対する先願としての地位を有するとするためには、引用意匠が本件本意匠とも類似しない点の確認を不可欠とするところ、各審決はいずれも、引用意匠と本願意匠が類似すると判断するのみで(この点に関する審決の判断自体は認める。)、引用意匠と本件本意匠との類否については判断することなく、引用意匠に本願意匠に対する先願としての地位を認め、それを前提に本願意匠が類似意匠登録を受けることができないとしたものであって、誤りである(なお、前記のとおり、丙事件では、引用意匠2の出願は本件本意匠2の類似第1号の意匠に類似するとして意匠法九条一項により拒絶されたものであるが、引用意匠2も本件本意匠2の意匠権の効力の及ぶ範囲に属しその実施が許されない点で、甲、乙事件の場合と変わりはない。)。

4  被告は、先願の意匠は、その出願が意匠法九条三項(取下げ、無効)及び四項(冒認)に明記された除外事由に該当するものでない限り、常に後願の意匠(先願の意匠と同一又は類似の意匠)に対して先願としての地位を有すると解すべきである旨主張する。しかし、右解釈は、後願が類似意匠登録出願に係る場合には該当しない。けだし、前記1、2で述べたとおり、後願の類似意匠登録出願に係る意匠が本意匠と同時に先願の第三の意匠にも類似する場合、右第三の意匠が本意匠の登録出願後の出願に係り、かつ本意匠に類似するものであるときは、該第三の意匠の出願が意匠法九条三項及び四項の除外事由に該当しなくとも、該第三の意匠は先願としての地位を有しないものと解すべきであるからである(この点に関し、審決(甲、乙事件)は、昭和五八年行ケ第二五四号事件の判決(甲第七号証)を採用しているが、右判決は、後願が独立の意匠登録出願である場合に関し、類似意匠登録出願である場合に関するものではないから、本件には適切でない。)。

また、被告は、意匠の登録要件と意匠権の効力の範囲はそれぞれ別異の立法政策に基づいて定められるものであることを理由として、類似意匠の登録要件と本意匠の意匠権の効力の範囲とは無関係である旨主張する。しかしながら、前記2で述べたように、類似意匠登録制度の趣旨が、本意匠に類似する範囲を明確にするとともにその意匠権の保護を強化しようとする点にあることに鑑みれば、本件において、本意匠の意匠権の効力の範囲を考慮に入れることは不可欠というべきである。そして、この点は、旧意匠法(昭和三四年法律第一二五号改正前のもの)に関するものではあるが、昭和三二年行ナ第三〇号事件の判決(乙第七号証)及びその上告審(最高裁)の判決である昭和三三年オ第八一七号事件の判決(甲第五号証)においても、「出願の意匠が、その出願前国内に頒布された刊行物に記載されている原登録意匠に類似しない第三の意匠にも類似するときは」(前者の判決)、「原判決が、出願の意匠がその出願前国内に頒布された刊行物に記載されている原登録意匠に類似しない第三者の意匠に類似するときは、も早や新規性を失い、原登録意匠に類似するかどうかの判定を待つまでもなく登録することができない旨判断したのは正当であって」(後者の判決)として、類似意匠登録の可否を、第三の意匠が原登録意匠(現行意匠法(昭和三四年法律第一二五号改正後のもの)の「本意匠」に当たる。)に類似するか否か、すなわち、原登録意匠の意匠権の効力の範囲内にあるか否かに係らしめていることからも裏付けられるところである。

5  よって、審決は、違法として取り消されるべきである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一、二は認める。同三のうち、1は認めるが、その余は争う。

二  被告の主張

1  意匠法九条は、意匠法上の基本原則である先願主義を定めるものであって厳格に解されるべきであるから、先願の意匠は、その出願が同条三項(取下げ、無効)及び四項(冒認)に明記された除外事由に該当するものでない限り、常に後願の意匠(先願の意匠と同一又は類似の意匠)に対して先願としての地位(後願排除効)を有すると解すべきである(審決が援用した昭和五八年行ケ第二五四号事件の判決にも同旨の判示がある。)。したがって、本件におけるように、本願意匠の先願に当たる引用意匠の出願が、本件本意匠(ただし丙事件では本件本意匠2の類似第1号の意匠)に類似するとして意匠法九条一項により拒絶(確定)されていたとしても、その故に、引用意匠が後願の本願意匠に対する先願としての地位を失うことはない。

2  また、類似意匠登録に関する意匠法一〇条は右先願主義に対する例外を規定するが、引用意匠は、右例外の場合にも該当しない。なぜなら、<1>意匠法一〇条一項において、例外として、先願の意匠であっても後願の意匠に対して先願としての地位を有しないとされているのは、類似意匠登録出願に係る意匠に類似する、先願の「自己の登録意匠」(本意匠)のみであって、引用意匠のような他人の先願意匠ではないし、<2>本件におけるように、引用意匠(第三の意匠)が本件本意匠(本意匠)の登録出願後で本願意匠(類似意匠)の登録出願前の出願に係る場合でも、類似意匠の登録要件に係る、引用意匠の先願としての地位の有無が、原告主張のように、引用意匠が本件本意匠と類似するか否か、換言すれば、引用意匠が本件本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するか否かというような点に左右される筈はなく、また、<3>原告主張のような立場を採るときは、類似意匠登録出願の審査・審判に際し、必ず、当該事件とは何ら関係がない、引用に係る先願意匠と本意匠との間の類否判断を余儀なくされることになり、審査・審判に対して過度の負担を強いることになる、からである。なお、右<2>の理由について敷衍すれば、意匠の登録要件をどのように定めるかとの点は、意匠の創作の意欲をそぐこととならず、しかも産業の発達に寄与するにふさわしい意匠は何かという観点からの立法政策に係るのに対し、意匠権の効力の範囲をどこまでにするかとの点は、意匠の創作の奨励ないし保護としてふさわしい範囲はどこまでかという、意匠の登録要件の場合とは全く異なる観点からの立法政策に係る問題であるから、両者の間には何ら関係がなく(例えば、意匠法は、登録意匠の意匠権の効力の範囲を「登録意匠及びこれに類似する意匠」(意匠法二三条)と定める一方で、その効力が当業者にとって周知の形状等から創作が容易である意匠(類似する意匠を除く。)にまでは及ばないにもかかわらず、このような意匠を意匠登録の対象から除外している(同法三条二項)。)、したがって本件においても、本願意匠の登録要件に係る引用意匠の先願としての地位の有無が、原告主張のように、引用意匠が本件本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するか否かというような点に関係するとは考えられないからである。

3  そして、意匠法一〇条一項により登録された類似意匠も、本意匠の意匠権の効力の範囲(類似範囲)とは別個に、独自の類似意匠権の効力の範囲(類似範囲)を有すると解すべきところ、もとより、本意匠に類似する意匠でない限り登録の対象とはならないという点では、本意匠の類似範囲を確認する性質を有するものではあるが、本意匠の意匠権の保護の強化は、本意匠の意匠権者に、登録類似意匠及びこれに類似する意匠を実施する権利の専有権を認めることを介して実現されるものである。そうであれば、類似意匠登録を受け得る意匠は、「自己の登録意匠にのみ類似する」なる要件に基づく特例(主体の同一、自己の登録意匠による新規性の喪失の特例、自己の登録意匠に係る先願に対する特例)を除き、その登録要件においても、他の一般の意匠と全く同様のものが要求されるべきことが明らかであるから(この点は、原告も援用する昭和三二年行ナ第三〇号事件の判決においても同様に判示されているところである。)、本願意匠は、先願に係る引用意匠の後願排除効により類似意匠登録を受けられず、したがって、これと同旨に出た審決の判断に何ら誤りはないというべきである。

4  なお、原告は、丙事件に関して、引用意匠2も本件本意匠2の意匠権の効力の及ぶ範囲に属しその実施は許されない点で、甲、乙事件の場合と変わりはない旨主張するが、引用意匠2に係る出願は、甲、乙事件の場合と異なり、本件本意匠2の類似第1号の意匠に類似するとして拒絶されているものであるから、引用意匠2が本件本意匠2に類似するとは限らず、右類似第1号の意匠に類似するが本件本意匠2には類似しない場合もあり得る。そして、その場合には、引用意匠2は本件本意匠2の意匠権の効力の及ぶ範囲外にあることになるから、原告主張のような、引用意匠が本件本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲内に属するときは本願意匠に対する先願としての地位を有さないとする立場を前提としても、引用意匠2には本願意匠3に対する先願としての地位が認められるべきである。

第四証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)及び引用意匠1、2が審決摘示(審決の理由の要点1ないし3の各(二))のとおりのものであることは当事者間に争いがなく、本願意匠1、2が引用意匠1と(甲、乙事件)、本願意匠3が引用意匠2と(丙事件)各類似する旨の審決の判断も、原告の認めて争わないところである。

二  取消事由に対する判断

1  原告主張の取消事由は、甲、乙、丙事件とも、要するに、審決が引用した引用意匠が、本件本意匠の登録出願後で、本件本意匠を本意匠とする本願意匠の類似意匠登録出願前の出願に係り、かつ引用意匠の出願が本件本意匠(ただし、丙事件では本件本意匠2の類似第1号の意匠)に類似するとして意匠法九条一項により拒絶(確定)されたものであるにもかかわらず(以上、(イ))、審決が、引用意匠と本件本意匠との類否判断をすることなく、引用意匠に本願意匠に対する先願としての地位(後願排除効)を認めた点(以上、(ロ))の違法をいうものである。そして、右(イ)の事実は当事者間に争いがなく、(ロ)の事実は前記当事者間に争いのない審決の理由の要点から明らかである。

2  そこで、前記(イ)の事実関係を前提として、各審決が、引用意匠と本件意匠との類否の判断をしなかった点の当否について検討する。

(一)  意匠法一〇条の定める類似意匠登録制度は、意匠が、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」(同法二条一項)という極めて具体的な物品の形態を対象とすることから、一般の需要、嗜好の変化に応じて適当に修正改良を加えて使用される場合が多く、また、僅かな変更を加えて模倣される危険性も大きいことに鑑み、特に本意匠に類似する意匠の登録を許すことにより、本意匠の類似範囲を明確にするとともに意匠権の保護を強化しようとしたものであり、また、類似意匠登録出願に係る意匠が本意匠に類似すると同時に第三の意匠にも類似するときは、これとの混同を避ける必要があることから、同条一項により右登録を受けられる意匠を「自己の登録意匠(本意匠)にのみ類似する意匠」に限定したものと解される。しかして、本件におけるように、類似意匠の登録出願に際し、類似意匠登録出願より先願の第三の意匠が存し、かつ該類似意匠登録出願に係る意匠が右第三の意匠に類似するときでも、該第三の意匠が本意匠の登録出願後の出願に係り、かつ本意匠に類似するものである場合は、該第三の意匠は、本来、本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するものとして実施が許されない筈のものであるから(本件の場合は、引用意匠の出願は本意匠の出願の後願として意匠法九条一項により拒絶される関係にあり、現に、甲、乙事件ではその理由で拒絶されている。)かかる第三の意匠にまで類似意匠登録出願に係る意匠に対する先願としての地位(後願排除効)を認めるとすれば、かえって、前記制度の趣旨に反することは明らかである。のみならず、仮に右のような第三の意匠に類似意匠登録出願に係る意匠に対する先願としての地位を認めるときは、例えば、第三者において類似意匠登録を妨害する意図を有する場合、本意匠と同一又は類似の意匠につき登録出願をなしておきさえすれば足りることとなり(当然、右出願は、意匠法九条一項により拒絶されることになるが、被告主張のように右出願に意匠の先願としての地位を認めれば、右出願によりその後になされた類似意匠登録出願は拒絶されることになる。なお、右出願が意匠法第三条一項により拒絶されることもあり得るが、その場合も事情は異ならない。)、それでは、類似意匠登録制度が全く機能しないことにもなりかねないところである。

(二)  そうであれば、本件におけるように、後願の類似意匠登録出願に係る意匠(本願意匠)が先願に係る第三の意匠(引用意匠)にも類似する場合であっても(前記一のとおり、本件においては、本願意匠が引用意匠に類似すること自体は争いがない。)、右第三の意匠が、本意匠の登録出願後の出願に係り、本意匠に類似するものであって、かつ、その出願が拒絶されたものであるとき(換言すれば、意匠登録がなされなかったものであるとき)は、右類似登録出願に係る意匠が本意匠に類似すると認められる限りにおいて、意匠法一〇条一項によって類似意匠登録が受けられるものと解するのが相当である。

なお、丙事件では、引用意匠2の出願は本件本意匠2の類似第1号の意匠に類似するとして拒絶されたものであるから(この点も、前記1(イ)のとおり当事者間に争いがない。)、引用意匠2が本件本意匠2に類似するとは限らず、右類似第1号の意匠に類似するが本件本意匠2には類似しない場合もあり得ることは被告主張のとおりであるが、引用意匠2が本件本意匠2にも類似する場合は、甲、乙事件と別異に解する理由はない。また、引用意匠2が右類似第1号の意匠に類似するが、本件本意匠2には類似しない場合は、引用意匠2は、原則に戻り、本願意匠3に対する先願としての地位を有するものと解すべきである。けだし、意匠法二二条にいう類似意匠の意匠権と本意匠の意匠権の合体の効果につき、被告主張のような、いわゆる結果拡張説(類似意匠登録により、本意匠の意匠権の効力の範囲とは別個に、類似意匠独自の意匠権の効力の範囲が生ずると解する説。この説では、このように類似意匠が独自の意匠権の効力範囲を有することになる結果として、あたかも本意匠の効力範囲が、その固有の効力範囲を超えて類似意匠独立の意匠権の効力範囲にまで及ぶがごとき観を呈することになる。)を採っても、いわゆる確認説(類似意匠登録によっても、類似意匠独自の意匠権の効力の範囲は生じないと解する説)を採っても、引用意匠2が本件本意匠2の意匠権の効力の及ぶ範囲外にあることに変わりはない以上、引用意匠2の先願としての地位が否定されるべき理由はないからである。もっとも、本意匠の意匠権の効力自体が登録類似意匠には類似するが本意匠には類似しない範囲にまで拡張されるとの説(いわゆる純然たる拡張説)を採れば、引用意匠2の先願としての地位は否定されることになるが、現行意匠法(昭和三四年法律第一二五号改正後のもの)の規定の下では、本意匠に固有の類似範囲(効力範囲)そのものは客観的に存在し、これを拡張するという概念を入れる余地は全くなく、その範囲外にあるものはすべて本意匠に非類似であるといわざるを得ないことは明らかであって、類似範囲を拡張しその中に非類似のものをとり込むということ自体矛盾というほかはないから、いわゆる純然たる拡張説なるものは採用しがたい。したがって、丙事件におけるように、他に類似意匠登録のなされた意匠がある場合にも、引用に係る先願意匠と本意匠との類否判断を不可欠とし、かつ、それで足りる(引用に係る先願意匠と登録類似意匠との類否判断の必要まではない)ものと解さるれのである。

(三)  被告は、先願主義に関する意匠法九条に関して、先願に係る意匠は、その出願が意匠法九条の三項(取下げ、無効)及び四項(冒認)に明記された除外事由に該当するものでない限り、常に後願に係る意匠(先願の意匠と同一又は類似の意匠)に対して先願としての地位(後願排除効)を有すると解すべきである旨主張するが(なお、各審決も右と同様の理解に立つものと解される)、右解釈は、後願が類似意匠登録出願に係る場合には妥当しない。なぜなら、類似意匠登録に関する同法一〇条一項自体が右九条の定める先願主義に対する例外を定めるものであり(この点は、被告も、被告の主張2及び3において認めているところである。)、かつ、右(二)で述べたとおり、類似意匠登録出願に係る意匠と本意匠と第三の意匠とが前示のような関係にある場合には、本意匠との関係のみならず、右第三の意匠との関係でも、同法一〇条一項によって同法九条の定める先願主義の例外を認めるべきであるからである(なお、この点に関して審決(甲、乙事件)が援用する昭和五八年行ケ第二五四号事件の判決は、成立に争いのない甲第七号証に徴し、後願が類似意匠登録出願である場合に関するものではなく、独立の意匠登録出願である場合に関するものであることが明らかであるから、原告主張のとおり、本件とは事案を異にし、適切でない。)。

また、被告は、本件の事実関係(前記1(イ))を前提としても、引用意匠が意匠法一〇条の規定する例外の場合には当たらない旨主張し、その理由として被告の主張2の<1>ないし<3>の点を挙げているので、順次検討する。まず、<1>の点は、同条一項において、例外として、先願の意匠であっても後願の類似意匠登録出願に係る意匠に対して先願としての地位を有さないとされているのは、類似意匠登録出願に係る意匠に類似する、先願の「自己の登録意匠」(本意匠)のみであるというものであるところ、たしかに、同項は、類似意匠登録を受け得る意匠を「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」と規定しているから、文理のみからすれば、「自己の登録意匠」(本意匠)以外の意匠はすべて右例外に該当しないとの解釈も成り立ち得ないではない。しかしながら、そのような解釈に従えば、前記(一)でみたとおり、本件のような場合、類似意匠登録制度の趣旨に反するのみならず、制度自体の機能を喪失させることになりかねないことに照らし、右解釈には到底左袒しがたいところである。次に、<2>の点は、意匠の登録要件と意匠権の効力の範囲(意匠法二三条により類似範囲にまで及ぶものとされている。)は別異の立法政策に基づいて定められているものであることを理由として、類似意匠の登録要件に関わる引用意匠の先願としての地位の有無が、引用意匠が本件本意匠と類似するか否か、換言すれば、引用意匠が本件本意匠の意匠権の効力の及ぶ範囲に属するか否かというような点に左右されることはないというものである。しかしながら、意匠の登録要件と意匠権の効力の範囲が別異の立法政策に基づいて定められていることが被告主張のとおりであるとしても、そのことから常に、意匠権の効力の範囲が意匠の登録要件に何らの影響も及ぼさないものと解すべき理由を見出しがたく、また、被告の主張する立法政策の相違が前記(一)、(二)に説示した法理を否定する根拠となるものとも認めがたいから、この点に関する被告の主張も採用しがたい。また<3>の点についてみるに、当該事件とは関係のない点についての判断を余儀なくされるとする点に関しては、前示(一)、(二)のように解すべきである以上、当該事件と関係がないとする前提自体が誤りであるというべきであるし、また、類似意匠登録出願の審査・審判に過度の負担を強いるものであるとする点も、意匠法において類似意匠登録制度が設けられている以上、やむを得ない負担というほかないものであって、いずれも、到底採用し得るところではない。

3  以上によれば、本件の事実関係(前記1(イ))の下においては引用意匠が本願意匠に対する先願としての地位を有するとするためには、引用意匠が本件本意匠と類似しない点を確認することが不可欠であるというべきところ、各審決が、引用意匠と本件本意匠との類否判断をすることなく、引用意匠に本願意匠に対する先願としての地位(後願排除効)を認めたものであることは前記1(ロ)でみたとおりであるから、この点で各審決は誤りであり、また右誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことも明らかであるから、各審決はいずれも違法として取消しを免れない。

四  よって、本件各審決の取消しを求める原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞 船橋定之 小野洋一)

(別紙)

1 甲事件

(一) 本願意匠1の出願経過、意匠に係る物品、意匠の形態等は、前項1記載のとおりである。

(二) これに対し、拒絶査定において類似するとして引用された意匠(以下「引用意匠1」という。)は、昭和五七年一二月一三日に出願し、昭和六〇年八月二八日拒絶査定となり、その後拒絶査定の確定した昭和五七年意匠登録願第五五八二三号に係り、意匠に係る物品を「埋込型天井用照明器具」、意匠の形態を別紙図面(二)(1) のとおりとするものである。

(三) 請求人(原告)は、引用意匠1が、本願意匠1の本意匠である本件本意匠1(意匠の形態は別紙図面(三)(1) のとおり)に類似するとして拒絶されたものであることから、本願に対して先願としての地位を有しない旨主張している。しかし、意匠法は、同法九条一項の規定を設け、いわゆる先願主義を採ることを明らかにするとともに、その規定の適用については、例外的に、後願の意匠登録出願が後願でなくなる場合として、その先願が取下げられ又は無効にされたときは、その意匠登録出願は初めからなかったものとみなし(同条三項)、また、先願の意匠登録出願が先願としての取扱いを受けられない場合として、その意匠の創作をしたものでない者であって意匠登録を受ける権利を承継しないものによりなされたときは、意匠登録出願でないものとみなす(同条四項)旨規定しているから、これらの規定の趣旨に鑑みると、先願が右例外の場合の事由に該当しない限り、後願について意匠登録を受けることができないことは明らかである。そうして、先願である引用意匠1について本願意匠1の本意匠である本件本意匠1に類似することを理由に拒絶査定があり、これが確定したとしても、前記例外の場合に該当するものではないから、引用意匠1は、先願の意匠としての地位を失わないというべきである。したがって、引用意匠1が、本願意匠1の本意匠である本件本意匠1に類似するとして拒絶査定されたものであっても、意匠法が先願主義に関する同法九条の適用に当たり、先願が拒絶査定されたことをもってその出願が初めからなかったものになるとか、先願としての取扱いを受けることができない事由としていない以上、拒絶査定された理由の如何にかかわらず、引用意匠1が先願の意匠たる地位を失うものでないことは明らかである(昭和五八年行ケ第二五四号参照、なお意匠審査基準についても参照のこと)。

(四) そこで、本願意匠1と引用意匠1について比較検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、意匠の形態に係る基本的な構成態様について、全体が横長扁平直方体状のもので、底面側を開放状とし、四周に細縁を設け、その内方を上方に向って弧状に反らせた反射板とし、開放状となった長手方向中央に半弧状に形成した遮蔽板を設けた態様である点が一致し、その具体的な態様についても、全体の短辺、長辺・高さの比をほぼ二・五対六対一としている点、反射板につき、長辺の縁の際から上方に向って弧状に反らせたもので、両短辺側一ぱいまでの略逆樋状に形成されている点、遮蔽板につき、幅を短辺の約三分の一の幅とし、両短辺間に掛け渡す態様で設けられたもので、内部の蛍光灯を包み込む態様で反射板と対向状に設けている点、その他、縁の外周が本体の側壁より僅かに外方へ突出している点の各点において共通する。ところが、両意匠間には、(1) 平面側に空間部を有するか否か、(2) 反射板の弧状の態様の差異、が主として認められる。

(五) しかしながら、(1) の点については、本願意匠1のものが別紙図面(一)(1) に示されるとおりの態様のものであるのに対し、引用意匠1は数個の小円孔を有する平坦な板面とした態様のものである点の差異であるが、この部位は、機能的にはともかく、意匠的にはあまり重要視できない部位についての差異であり、また、両者の態様ともこの種の物品においては極めて普通にみられる態様でもあって、それほど特異性がみられず、その差異が両意匠の類否判断に与える影響も軽微であって、両者の類否判断の要素としてそれほど高く評価することができない。(2) の点についても、本願意匠1のものが別紙図面(一)(1) に示されるとおりの態様のものであるのに対し、引用意匠1のものは略半円状を呈する弧状のものである点の差異であるが、両者は、上方に向って弧状に反らせた略逆樋状に形成された態様のものである点では共通しているところであり、その共通点における僅かな差異に止り、両意匠の類否判断の要素として殆ど評価することができない。

(六) してみると、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。したがって、両意匠の形態について、前記の差異が認められるものであったとしても、これについてあまり高く評価されない差異である以上、一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしてその具体的な態様によって表象されるまとまりが共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、両意匠は、類似する意匠であるといわざるを得ない。

(七) 以上のとおりであって、本願意匠1は、引用意匠1に類似するものであり、意匠法九条一項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。

2 乙事件

(一) 本願意匠2の出願経過、意匠に係る物品、意匠の形態等は、前項2記載のとおりである。

(二) これに対し、拒絶査定において類似するとして引用された意匠は引用意匠1である。

(三) 請求人は、引用意匠1が、本願意匠2の本意匠である本件本意匠1に類似するとして拒絶されたものであることから、本願に対して先願としての地位を有しない旨主張している。しかしながら、意匠法は、同法第九条一項の規定を設け、いわゆる先願主義を採ることを明らかにするとともに、その規定の適用については、例外的に、後願の意匠登録出願が後願でなくなる場合として、その先願が取下げられ又は無効にされたときは、その意匠登録出願は初めからなかったものとみなし(同条三項)また、先願の意匠登録出願が先願としての取扱いを受けられない場合として、その意匠の創作をしたものでない者であって意匠登録を受ける権利を承継しないものによりなされたときは、意匠登録出願でないものとみなす(同条四項)旨規定しているから、これらの規定の趣旨に鑑みると、先願が右例外の場合の事由に該当しない限り、後願について意匠登録を受けることができないことは明らかである。そうして、先願である引用意匠1について本願意匠2の本意匠である本件本意匠1に類似することを理由に拒絶査定があり、これが確定したとしても、前記例外の場合に該当するものではないから、引用意匠1は先願の意匠としての地位を失わないというべきである。したがって、引用意匠1が、本願意匠2の本意匠である本件本意匠1に類似するとして拒絶査定されたものであっても、意匠法が先願主義に関する同法九条の適用に当たり、先願が拒絶査定されたことをもってその出願が初めからなかったものになるとか、先願としての取扱いを受けることができない事由としていない以上、拒絶査定された理由の如何にかかわらず、引用意匠1が先願の意匠たる地位を失うものでないことは明らかである(昭和五八年行ケ第二五四号参照、なお、意匠審査基準についても参照のこと)。

(四) 本願意匠2と引用意匠1について比較検討すると、両意匠は意匠に係る物品が同一であり、意匠の形態に係る基本的な構成態様について、全体が、横長扁平直方体状のもので、底面側を開放状とし、四周に細縁を設け、その内方を上方に向って弧状に反らせた反射板とし、開放状となった長手方向中央に半弧状に形成した遮蔽板を設けた態様である点が一致し、その具体的な態様についても、全体の短辺・長辺・高さの比をほぼ二・五対六対一としている点、反射板につき、長辺の縁の際から上方に向って弧状に反らせたもので、両短辺側一ぱいまでの略逆樋状に形成されている点、遮蔽板につき、幅を短辺の約三分の一の幅とし、両短辺間に掛け渡す態様で設けられたもので、内部の蛍光灯を包み込む態様で反射板と対向状に設けている点、平面側が数個の小円孔を有する平坦な板面とした態様のものである点、の各点において共通する。ところが、両意匠間には、反射板の弧状の態様について、本願意匠2のものが別紙図面(一)の(2) に示されるとおりの態様のものであるのに対し、引用意匠1は略半円状を呈する弧状のものである点の差異がある。

(五) しかしながら、両者は、上方に向って弧状に反らせた略逆樋状に形成された態様のものである点では共通しているところであり、その共通点における僅かな差異に止り、両意匠の類否判断の要素として殆ど評価することができない。

(六) してみると、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。したがって、両意匠の形態について、前記の差異が認められるものであったとしても、これについてあまり高く評価されない差異である以上、一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしてその具体的な態様によって表象されるまとまりが共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、両意匠は、類似する意匠であるといわざるを得ない。

(七) 以上のとおりであって、本願意匠2は、引用意匠1に類似するものであり、意匠法九条一項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。

3 丙事件

(一) 本願意匠3の出願経過、意匠に係る物品、意匠の形態等は、前項3記載のとおりである。

(二) これに対し、拒絶査定において類似するとして引用された意匠(以下「引用意匠2」という。)は、昭和五七年一二月一三日に出願し、昭和六〇年八月二八日拒絶査定となり、その後拒絶査定の確定した昭和五七年意匠登録願第五五八二五号に係り、意匠に係る物品を「埋込型天井用照明器具」、意匠の形態を別紙図面(二)(2) のとおりとしたものである。

(三) 本願意匠3と引用意匠2について比較検討すると、意匠の形態に係る基本的な構成態様について、全体が、横長扁平直方体状のもので、底面側を開放状とし、四周に細縁を設け、その内方を上方に向って弧状に反らせた反射板とし、開放状となった両長辺側の縁に添って遮蔽板を設けた態様である点が一致し、その具体的な態様についても、全体の短辺・長辺・高さの比をほぼ二・五対六対一としている点、反射板につき、長辺の縁の内側から上方に向って弧状に反らせたもので、短辺側一ぱいまでの略逆樋状に形成されている点、遮蔽板につき、長辺の縁から内方に水平にせり出し、その部位より斜め上方に折曲した短い板状のもので内部の蛍光灯を包み込む態様に設けている点、その他、縁の外周が本体の側壁より僅かに外方へ突出している点、の各点において共通する。ところが、両意匠間には、(1) 平面側に空間部を有するか否か、(2) 遮蔽板の態様の差異、が主として認められる。

(四) しかしながら、(1) の点については、本願意匠3のものが別紙図面(一)(3) に示されるとおりの態様のものであるのに対し、引用意匠2は数個の小円孔を有する平坦な板面とした態様のものである点の差異であるが、この部位は、機能的にはともかく、意匠的にはあまり重要視できない部位についての差異であり、また、両者の態様ともこの種の物品においては極めて普通にみられる態様でもあって、それほど特異性がみられず、その差異が両意匠の類否判断に与える影響も軽微であって、両者の類否判断の要素としてそれほど高く評価することができない。(2) の点についても、本願意匠3のものが角張った折曲の態様のものである点に差異が認められるが、両者のものとも短辺の内方ほぼ五分の一までの間に水平部分を設け、これより先を折曲した態様のもので、内部の蛍光灯を包み込む態様に設けている点では共通しており、その共通点における折曲部位についての差異であり、意匠全体としては限られた部位についての僅かな差異ということができ、また、その部位について著しい特徴といえる程のものでもないことから、その差異は軽微なものというほかなく、両意匠の類似判断の要素としてそれほど高く評価することができない。

(五) してみると、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様は、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ、全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであるから、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。したがって、両意匠の形態について、前記の差異が認められるものであったとしても、これについてあまり高く評価されない差異である以上、一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしてその具体的な態様によって表象されるまとまりが共通し、これから生ずる美感をも共通にすることとなるから、両意匠は、類似する意匠であるといわざるを得ない。

(六) 請求人は、引用意匠2が、本願意匠3の本意匠である本件本意匠2のみに類似する意匠であるとして登録になった登録第五九三四八六号の類似第1号の意匠(別紙図面(四)のとおり)に類似するとして拒絶されたものであることから、本願に対して先願としての地位を有しない旨主張しているところである。しかし、意匠法一〇条一項は、「自己の登録意匠にのみ類似する意匠について類似意匠の意匠登録を受けることができる」としているところ、本願意匠3は他人の先願に係る意匠に類似しているものであることから、本願意匠3は同条同項にいう「自己の登録意匠にのみ類似する」ものではない。したがって、本願意匠3は、本意匠との類否にかかわりなく同法九条一項により拒絶すべきものといわなければならない。

図面(一)(1) (2) (3)

図面(二)(1) (2)

図面(三)(1) (2)

図面(四)

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